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世界18カ国の言語、文化、生活の様子を描写した絵本シリーズ『せかいのあいさつ』全3巻(童心:こがようこ 文/下田昌克 絵/岡本啓史 監修)が2023年4月に完成!
今回は監修者としてこの絵本シリーズの作成に関わったので、詰められた思いや幼少期の教育について思うことを少しだけ紹介したい。
なぜこの絵本シリーズ
あいさつを通して、さまざまな国の子どもたちの暮らしを紹介するというこの絵本シリーズ。
それぞれの国ならではの文化や多様性を通して、親しみや共感を感じてもらい、身近にいる外国出身の子どもと仲良くなったり、世界のまだ見ぬ子どもたちに想いを寄せるきっかけにしてもらうことが目的。
内容
地理的な条件や、その国の言語や文化の多様性等、色々な条件を考慮して選ばれた18カ国の子どもを紹介。『せかいのおはよう』『せかいのありがとう』『せかいのあそぼう』の各巻で6カ国の短いストーリーを取り上げている。
対象者は4−5歳からとなっているものの、個人的には読み聞かせをする保護者や色んな世界・多様性に興味がある人も楽しめるかと思う。
巻末にはそれぞれの国の情報や、取り上げた国の色々な言語紹介、私が執筆した「監修のことば」が記載されている。
プレスリリースで、一部中身の紹介なども:まだ見ぬ世界の友だちに出会える! 絵本「せかいのあいさつ」[全3巻]刊行 & 原画展開催決定!
どのようにしてできたか
自分が関わってからのプロセスを紹介する。
きっかけは2022年8月に発売された拙著『なりたい自分との出会い方:世界に飛び出したボクが伝えたいこと』(岩波書店)(こちらの紹介や裏話に関しては過去記事参照:初書籍『なりたい自分との出会い方』の概要、表紙への思いと裏話)。
時は遡り、上述の書籍発売の2週間前の7月27日、日本からアフリカ(モザンビーク)行きの移動日。著書の発売日に日本にいないことは、自分の赤子を初日に抱けないような複雑な心境。そんな思いを抱えながら移動開始した直後に、あるメールが届く。
絵本『いないいないばあ』や紙芝居などで知られる出版社である童心社からの連絡。上記の岩波書店から出る本がきっかけで私を知ったとのこと。5大陸に住み、色んな世界で活動して教育や子どもと関わってきた自分に、『せかいのあいさつ』シリーズの監修を頼みたいとのこと。
日本からモザンビークまでの怒涛の40時間超の移動中、乗り継ぎや1歳になる前の子どもの世話をしながら、新しい仕事がモザンビークで始まるこのタイミングで新しい絵本シリーズの監修ができるやろうか、そもそも監修って何?、とバタバタしながら色々なことを考えていた。
ただ、基本的にはメールを見た時から直感で引き受けようとは思っていた。なぜなら、上記の初書籍を執筆することになった2021年4月から、いやむしろもっと前から、日本内外で多様性や幅広い学びを推進していきたいという思いは強くなっていたからである。そして、我が子のために自分も絵本を手作りするようになっていたので、これも良い学びのきっかけだろうと思った。
モザンビークに着いた直後の疲労困憊+時差ぼけ中というフラフラした状態で、引き受けたい旨の返事を書くことに。その直後に打ち合わせの会議開始。まだ住居も見つかっていないので、家族3人で滞在していた、1部屋しかないホテルアパートの小さなベランダでズーム会議。日本の裏側とも言えるアフリカのモザンビークに着いたばかりでも、こうして日本の出版社とオンラインでつながっていられるのは、本当に時代の変化だと痛感。そういえば、上記の『なりたい自分との出会い方』も全てオンラインでやりとりしたが、岩波編集者から言わせると、コロナ前だとそういうケースはあまりなかったとのこと。
(当時のホテルアパートのベランダからの、意外と都会感がある景色)
その後から頻繁にやりとりを開始。本来の内容確認や情報収集に加えて、翻訳作業やストーリー作成のサポートなども少しだけすることに(乗り掛かった船ということもあり、なるべく対応させてもらった)。
そのプロセスを経て何度も感じたことは、今更だけど「世界は広い」ということ。
自分の見てきた景色や出会ってきた人たちが全てではないけれど、5大陸に住んで40カ国以上と仕事をして、旅も60カ国以上してきた中で、肌や心で感じたものは少なくない。ストーリーや表現の仕方、景色など、ここはこうした方がよいというところはできるだけ意見を述べることにし、編集側と意見が異なることはもちろんあったものの、お互い寄り添って話し合いながら作業を進めた。
今回のシリーズで取り上げた18カ国の大半は、自分が住んだ国か、旅したことある国のどちらか。それでもやはり現地にいる人に聞かないとわからないことも多い。特に子どもの細かな様子(その国のある都市の子どもがどんな家に住んでいて、どんな遊びをしているか)など、その場所に住んでいてもなかなかピンとこないところも多い。そこで、編集側と並行して、世界にいる友人や知人に連絡して、その国の情報を聞いたり、出来上がったラフが文脈とかけ離れていないかなどについて教えてもらうことに。世界を舞台に人の繋がりのありがたみを改めて痛感した。
監修者としての具体的なアウトプットでもある、各巻末の「監修のことば」は少し特殊な立ち位置でもある。素敵な絵が続いた後に、テキストのみで1ページを使うという、場面がガラっと変わるページである(小さい子どもからしたらつまらない変化かもしれないが、読み聞かせをする周りの大人にも届き、そこから何かを伝えていただければ本望)。なるべく各巻に関連する色々なエピソードを書きたい気持ちはあったが、今回はあくまで監修として絵本のサポート役ということで、指定された範囲内で思いを込めることに。
作家と画家の方(共にその道のプロ)とは直接お会いすることはなく(作家の方とは一度オンライン会議で繋がる)、編集者の方ともオンラインのやりとりのみ(完成後に一時帰国した時に一度会うことができた)。そんな色々な人が、色々な思いを込めて、色々な国の様子を描いたものが、この絵本シリーズに込められている。本の印象も、とてもカラフルで多様性を気持ちよく象徴している。
自分の役割
既述の通り、最初は監修が何なのかすらわからなかった。主な役割は、シリーズ全体のチェック、「監修のことば」執筆、各国の情報や文脈を知り合いから情報収集。そしてもともと予定していなかった翻訳や一部ストーリーのチェックや提案などもあった。
世界の文化や多様性を取り扱う本シリーズの監修で特に気をつけたのは、「こういうことは描かないほうがいい」「差別や不平等を助長する」というような観点。各国のスペースが限られており、その国全体を代表する描写ではないといっているものの、「家事は女性がするもの」「子どもが親の仕事を手伝って児童労働をするのが慣習化されている」といった、実際に起こっていたとしても、限られたスペースでそのような描写をすることでジェンダーや子どもの権利の観点で読者の偏見を植え付けないようにというのにも気をつけた。
それに関して、以下に幼児教育の力強さとリスクについても簡単に紹介する。
幼児教育の力強さとリスク
幼少期は人間形成期ともいわれ、子どもはスポンジのように色んなものを吸収して育っていく。
ノーベル賞受賞学者のジェームズ・ヘックマン博士は、乳幼児期の教育投資の重要性(非認知能力と学力、将来の年収向上)を実証し、世界の教育家に多大な影響を与え、国連などを含めて、それまで初等教育以降に注力していた流れが少しずつ変化していった。また、Lifelong Kindergartenの創始者ミッチェル・レズニック博士によると、経済的な面だけでなく、幼児教育は創造力などのソフトスキルを養う最高のイノベーションだとも言われている。
そんな大事な幼児期の子どもが何を観て、何を聴いて、何をするかによって、その後どういう人間になるかが形成されるとも言われている。それぞれが生まれながらに持つ好奇心を刺激してのびのびと成長していくためには、周りの大人の役割がとても大事になってくる。そして、その大切なツールの一つが、絵本である。
そんな大事な時期なので、やり方や伝え方によっては、絵本を含む幼児教育や家庭教育が時にはプロパガンダや偏見・ステレオタイプを形成することに繋がるというネガティブなリスクもある。
日本の戦時中においても、戦争賛成というイメージを生み出すためのプロパガンダとして、絵本が使われた歴史もある。兵隊=かっこいい、戦争=やるべきこと、という情報を子どもたちがスポンジのように吸収していったことが問題視されている(もちろん、当時はその是非に関してオープンに発言できるような状況ではなかったようだ)。
そして、絵本を含め、幼児教育がプロパガンダとして利用された例は世界でもたくさんある(ドイツナチス、旧ソ連、中国、等)。
一方、世界には絵本文化どころか、本の文化すら無い国もある。そのような中、得られる情報や刺激は限られており、周りの大人や限られたメディアの中で子どもは育っていく。
他にも無意識に先入観を植え付けるケースがある。例えば、以下のツイートでも述べたが、男=青、女=ピンクという固定概念が、小さい頃から周りの大人や友達から植え付けられていると、それが当たり前ということにもなってしまうかもしれない。
[ #Diaper that kills diversity]I went to a famous baby store in Japan, and was surprised to see diapers to play in the water.
The #stereotype of “Boy=blue 🩵 Girl=pink🩷" is planted from childhood
An employee said both had the same function, so I chose different color🌈
— MD Hiro / 岡本啓史💡 (@mdhiroshi) June 6, 2023
上記のような固定概念に関して少し疑問を抱いたその後、自分の娘を連れて公園に行くことに。
そこで娘が知らない家族に近づいていったが、周りの大人が「女の子だからピンクの椅子に座りたいよねー!」ということで選択の余地を与えずにピンクの椅子を出して娘を座らせた。
その後、娘は青い椅子を持ってきてそっちに座り、もう1人の女の子が嬉しそうにピンクの椅子に座っていた。
正直何色でもいいけど、男だからこう、女だからこうという固定概念はどうも違うと思う(もちろん、自分でも無意識で植え付けているかもしれないが)。
初読者
話を絵本シリーズに戻す。多様性を促進する絵本の見本が、日本に一時帰国した際に届いた。
最初の印象は、「でっか!」である。そしてパラパラと開いてみると、やはり実物の絵本は迫力がある。 色んな色を使っているのも、多様性を物語っている。
そして、台の上に見本を置いてみたらどうなるかという実験をしてみた。
予想通り、娘がやってきた。まるでおいしいご飯の匂いを嗅いだかのように、その本が置いてあるところまで来るのに5秒もかからなかった。気がついたら自然に手にとっており、立ち読み→座り読みと、関係者以外で初読者の子ども読者かもしれない(しかも対象年齢4−5歳よりも小さい1歳児)。
表紙と裏表紙はこんな感じ↑
色んな人の力が合わさって出来たこの絵本シリーズ。多くの子ども/保護者が手に取って、色んな世界があるということを知って、何かに興味を持ってくれればありがたい。
今回の学び
『せかいのあいさつ』絵本3巻シリーズの監修を通して、幼児教育における多様性促進の大切さや、色々な人に助けられていることを改めて学んだ。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。良い学びを!
えむD